視線の先 ---------------------------------- 「オイオイ、あれを飛ぶかよォ」 順番待ちのクラスメイトから感嘆と非難の入り混じったような声をかけられて、三上はその唇に小さく笑みを浮かべてみせた。 「やっぱ脚の長さが密接に関係してんじゃないの」 「お前が言うと、嫌味以外の何でもないんだよッ」 「いや、そのつもりだし?」 「だーッ、ムカつく!」 そんな軽口をかわしあって、三上はまた列の後ろにつく。 その時、ふと背中に感じた違和感。 次に、覚えのある感覚が身体を覆って、三上は思わずその場に立ち尽くしそうになった。 焼けつくような、ひりつくような、痛みを覚えさえする、誰かの視線。 それでいて、どこか甘い――身の内が疼くような。 知ってる。 これは知ってる視線だ。 藤代。 三上は校舎の方を振り仰いだ。 二年生の教室が並ぶ階に目をやって、そこにやはり彼を見つけた。 机に頬杖をついた姿勢が窓ガラス越しに確認できる。 今はもうこちらを向いていない藤代の、少し気怠げな横顔。 普段の藤代なら絶対に見せない顔だ。 ただ彼は時々――ひとりでいる時、誰にも見られていないと思う時、あんな表情をすることがある。 (俺が知らねーとでも思ってんのかよ) どうやらすぐに三上の視線に気づいたようで、藤代が急にその表情を翻してこちらに向かって手を振ってきた。 ついでに間抜けヅラで笑ってみせるから、三上は思いきり呆れた表情を返して、また前を向いた。 まだ背中にかすかに感じる、彼の視線。 きっと藤代は苦笑を浮かべているだろう、そんな気がした。 「次、三上」 担当教師に呼ばれて――飛んだ三回目は初めてバーを落とした。 (カッコ悪……) 三上はバーの落ちた宙を見上げて、舌打ちする。 「あのバカのせーだ」 |
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