キスの正しい利用法
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 そりゃあ、カンペキ利用されてんだよ。
 その男、オマエのカラダ目的なの丸わかりじゃん。



 少し前の三上なら、ためらわず目の前の相手にそう告げていただろう。
 しかし黙っていた。
 女の訴えは続く。

「だけど時々はやさしいんだ。だから……」

 時々な、わかるよ。三上は思わず皮肉な笑みを口の端に浮かべてしまった。
 慌てて隠すが、女は元より気づく素振りもない。自分の想いを吐き出すことに夢中だ。




 時々、やさしい。
 それも信じられないくらい。


 普段との落差に心臓を握り潰される心地がする。
 息が止まってしまいそうなほどの幸福感。酩酊感。

 その下にある打算や思惑などを思い煩うスキも与えないほどの。




 藤代はキスの正しい利用法というものを熟知している。



 さんざ好き勝手して(だいたいにおいて藤代のセックスはこの年代の男の大多数に違わず自分勝手だ)飽きたらポイとばかりに打ち捨てられて、さすがに三上もキレかけて、もう金輪際ヤツと寝るものかと決意する。決意したその瞬間、顎を掬われて口づけられるのだ。
 ゴメンネ、そんな台詞を言外にほのめかし目で笑う。
 わかりやすい。わかりやすいのだが、だからこそ効く。参る。


「どうしても別れられないの」


 そんな相談、俺にするな。人にするな。
 わかってんだろ、別れられないものは別れられないんだ。
 選択権は、お前にはない。


 まるで自分の姿を鏡に映して見ているようだった。
 三上はだんだんその場にいて女の話を聞いているのがつらくなってきた。
 脳裏に思い浮かぶのは、同性の後輩の顔。
 乱暴な手が、時折やさしく髪を梳く。行為の最中に、宥めるように落とされる口づけ。無慈悲な瞳がいとおしいものを見つめるように眇められる、唇を重ねる、その一瞬。





 キスをもっといっぱいくれたらいいのに。



 三上がそれに慣れてしまわないよう、藤代はいつでもコントロールしている。



 キスをもっといっぱいくれたらいいのに。



 そしたらきっと俺はお前の前でついに泣いてみせることができて、そしてこの一方的な恋。ともよべない寸劇を完全に終わらせることができるのに藤代。


















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