転生もの現代パラレル。既刊「Let it all out」シリーズのさなだてです。時間的には「つないだ手」の後になります。




 古都の冬は腹の底から凍えるような、しんとした冷たさだ。真田はダッフルコートの上から巻いたマフラーに顎を埋める。鈍い赤色をしたそれは伊達が昨年末、大みそかの日に宅配便で送って寄越したものだ。
お前の襟もと見てるとこっちが寒々しくなるんだよ。電話で礼を述べた真田に伊達はさも面倒そうに答えてみせた。まるで毎日、真田の装いを目にしているような言い草だが、実際には毎日どころか数カ月に一度しか会えればいいほうだ。最近では年末、実家へ帰る前にと、伊達がわざわざこちらへ足を運んでくれたときのみだ。年が明けてからは会っていない。
 唇を引き結び、真田はマフラーに口許まで納めてしまう。伊達が選んだだけあって肌触りは素晴らしくよい。きっと上質のものなのに違いなかった。
 真田くーん、呼び声に顔を上げる。坂の上に固まっていた女子たちが手を振っている。お団子こっちにもあるよ食べないのー、先ほどから真田が食べ物屋にしか興味を示さないことを彼女らは面白がってそう言うのだ。制服のスカートのひだが揺れている。そこから覗いている膝頭は一様に素肌のままで寒々しいと言えばこちらのほうが余程寒々しい。
 何見てんだよ真田。級友がにやにやと笑いながら真田を横から小突いた。はあ、と曖昧に答えを返す。こうした真田の薄い反応に級友は普段から慣れていて、白けたようすもなく上機嫌で行こうぜと促した。
生徒たちは皆それぞれに浮き足立って、ふわふわと落ち着かないようすだ。来年は受験生である。その前に、この高校生活最大の行事を目一杯楽しんでやろうという雰囲気で満ち溢れていた。
 真田も決してこの旅行が楽しくないわけではない。教室で椅子に座り、真面目に授業を受けているよりはずっといい。だが、どうしたって心の片隅にはかのひとがいて、それはどこにいても真田をとらえて離さないのだ。
ここにきてもう何本目かわからなくなった団子の串に齧りつきながら、真田は漏れそうになった溜め息を堪えた。
 団子はうまい。京都の街並みはかつて生きた時代を彷彿とさせ、懐かしく風情があって目にも楽しい。ただ、己の横にかのひとがあればもっと――そう真田は考えてしまう。幾歳の差などたいしたことではないと思っていたのに今生ではそれが大きくものを言う。
 ――あと一年、か。
 真田は仰向いて空を見上げた。ごく薄い水色をしたそれは伊達の今いる東京の空にも続いているのだ。そこまで思って、かつて己が上田の空を見上げながら同じことを考えていたことを思い出した。あの頃、同じ冬空でも空はもっと色濃くあったように思う。文字通りの蒼穹にかのひとの面影を幾度も重ねた。
 ――わずか、一年だ。
 そう己を宥めて残りの団子を口に押し込む。みたらしの甘いたれが喉を焼いた。





(本文冒頭より抜粋)