一 週 間





日曜日 : start





 近づくタイムリミットと、新たに始まるカウントダウン。










月曜日 : 迂闊





 爽やかな朝の教室で、爽やかに学生服を着こなした男が、爽やかな微笑を携えて近づいてきた。
 オレはむっつりと頬杖をついたまま目線だけでそいつを見上げる。

「黒羽君。見えてるよ」

 とんとんと自分の首筋を指差して。

「それとも見せてるのかな」

 白馬はふっと口許だけで笑ってみせる。
 ずいぶん楽しそうだなオイ。

「楽しそうなのは君のほうだろう、黒羽君?」

 心外だというように今度は片眉を吊り上げてみせる。いちいち芝居がかったヤツめ。

「こう見えて君は意外と迂闊だからね」

 そうだよ白馬、お前の言うとおり。
 こう見えて浮かれてんだよ悪いかコンチクショー。










火曜日 : convenience,inconvenience





 一日が終わる。黒羽の顔が浮かぶ。会いたいなと思う。

 でも俺たちはインコンビニエンスな関係だから。
 簡単には口にしない。


 立ち寄ったコンビニで今週新発売のチョコレート菓子を買う。
 いつのまにか、何が新作で何がそうでないかわかるようになった。

 放り投げてやった菓子を受け取るときに見せる笑顔が好きだ。

 ひとかけのチョコで至福の表情を浮かべる、お手軽なヤツ。
 それを期待して菓子棚をチェックする、単純バカな俺。


 簡単に手に入るものも、簡単には手に入らないものも、どちらも愛しい。










水曜日 : 初物





「あれー? 快斗、買わなかったの?」
 先にレジを済ませていた青子が手ぶらのオレを見て首を傾げる。
「うん。やめた」
「あのチョコ、快斗絶対買うと思ったのに。好きだよね、新しいの試すの」
「まあな。でも今日はやめとく」
「なんでー? 金欠?」
「まー、そんなとこ」

 にへらと笑うと、幼馴染みは警戒体勢をとってみせた。

「だめだよ、青子もお小遣い前で、おカネないんだからね! 貸せないよ?」
「わあってるってえ」

 オレは上機嫌で、頭の後ろへ手を回した。
 空を見上げたついでに一番星を見つける。ようやく折り返し地点。

「オレのアテは別にあんの」
「なあに、それ〜?」
「今度、食ってみて旨かったら青子にもやるよ」
「ほんと? 約束だよ!」
「おう」

 まだ十年と数年しか生きていないオレたちにとっては毎日が新たな発見と体験の連続だ。
 オレたちはそれを互いじゃない誰かと共有してゆく。
 そんなことは、お互いさまで、今さらだけどさ工藤。

 例えば新発売の菓子のパッケージを開ける瞬間のワクワク感だとか。


 そんくらいの初めてはとっておいてやるよ、オメーにな。










木曜日 : stock





 メシがなくなった。

 厳密には、黒羽が用意してくれた数日分のおかずを食べ切ったというのが正しい。

「あんまりたくさん作るとダメにしそうだしさ。お前、毎日家で食うとは限んねえだろ」

 確かに事件で立て込めば、現場で済ます。
 でも現場からの帰りに寄り道して外食することは減ったんだぜ?
 お前の手料理食いたさに、空腹を抱えたまま、マックや吉野屋の前を素通りしたのは一度や二度ではないんだ。

 空になった皿を前に、俺はダイニングの天井を振り仰いだ。


「足りねー」

 料理も、お前も。










金曜日 : 遠距離恋愛





「俺たち遠距離恋愛してるみてーだよな」

 工藤の発言はいつだって唐突だ。

「こうして土日にしか会えないなんてよ」
「………」
「それも毎週じゃねえし」

 平日に会う努力をすりゃあいいことだろ。

「やめとく」

 工藤は謎めかした微笑を浮かべてみせた。そいつはオレの専売特許のはずだったんだがな。

「平日に会ったりなんかしたら、お前のことでいっぱいになって、他のこと何も手につかなくなっちまう」

 だから、やめとく。

 工藤は柄にもなく、はにかんだように笑った。
 いつもの傲岸さはどこへ置いてきた。

 俺はお前に夢中なんだぜ、って、とっておきのいい声で工藤は囁いたけど。

 甘いな。

 オレは週末が待ち遠しすぎて、毎日が上の空なんですがね。

 言ってやろうか迷ってやめた。
 オレも甘い。










 明日は、会える。












土曜日 : restart





「なあ、工藤」

 指先についたココアパウダーを舐め取る仕種が可愛らしくも色っぽい。

「一週間の始まりは月曜日なんじゃなくて日曜日だってこと、オメー知ってた?」
「諸説あるけどな。まあ、日本ではそういうことになってるな」

 陽が沈んでからもう随分、時間も経った。なあ、黒羽。そろそろ、いいか?いいだろ?

「だからさ、オレとお前はここで週の終わりと始まりを共有してることになるわけだ」
「年越しならぬ週越しか」
「そゆこと」

 にこりと笑って、ソファの上で正座して、三つ指ついて。

「今週はお世話になりました、来週もよろしくお願いします」
「こちらこそ」

 黒羽の身体を引き寄せて挨拶がわりのキスをした。
 バランスを崩して俺の膝の上に倒れ込んだ黒羽が笑っている。

「週でいちばん最後のキスだな」
「ああ、そしてこれから週始めのキスだ」

 黒羽が笑う。俺も笑った。

「なあ、工藤」

 再びの問いかけ。

「こういうのも姫はじめ、って言うのかな」

 こちらに向けられた笑みは可愛らしくも艶かしい。

「言うんじゃねえの」

 最高の、一週間の幕開け。






back