深く口づけ絡め取った三上の舌は震えていた。 藤代が目を開けると、間近に見える伏せられた三上の睫毛も小さく揺れていて―― 「三上先輩」 一度唇を離して、藤代はその頬をゆっくり撫ぜながら少し笑う。 「なに……」 うっすらと目を開けた三上は、次の瞬間またぎゅっと瞼を瞑った。 「お、前ッ……どこ触って……!」 「そりゃ触るでしょ」 前触れなく藤代の掌に包まれて三上が耐えるよう歯を食い縛る。しかし容赦はしない。かえって、その様に煽られたように藤代は指先の動きを激しくした。 「まずは先に一回イッときましょうね」 「よ、せ……」 力なく訴える唇をもう一度唇で塞いでしまう。 完全に藤代のペースだった。三上はあっさりと追い上げられ、促がされるまま藤代の掌を濡らした。 「……アッ…!」 かすかに耳に届いた三上の喘ぎ声。 初めて聞くそれに藤代は一瞬眩暈を起こしそうな感覚に襲われる。 ――ってか、もうソレすでに犯罪だよ、このヒト。 早くも己の忍耐力を試されているような気になって、こっそり藤代は苦笑した。 「……そのまま、もっと脚開いて?」 「………ッ」 耳元での囁きに、しばし葛藤と躊躇を見せたあと、三上が大人しく藤代の言うことに従う。おずおずと開かれた三上の脚に手をかけて、藤代はゆっくりと身体を乗り上げる。 「力抜いてて……」 藤代の指先が奥に触れ、三上はひどく動揺したようだが、抵抗はない。 じっとされるがまま肩口に顔を寄せている。 知らない、ということがそうさせるのか、三上は藤代の言うことを恐る恐るながらも素直に受け入れていた。 まるで物慣れないその三上のようすは、藤代をたまらない気持ちにさせる。 まだ何も知らない三上。丸ごと自分のものだという感覚。 突き上げる衝動のまま抱いてしまいそうになるのを、藤代は何度も堪えなくてはならなかった。 それでなくとも腕の中の三上は未知の体験にまだ相当な躊躇いを感じている。証拠に、三上の身体はずっと強張ったままだ。 「先輩、そんな緊張しないで……大丈夫だから……」 三上のようすを窺がいながら慎重に指先を中に埋めてゆく。 少し中で動かしてみせると、初めて三上が泣きそうに顔を歪ませた。 「ア……ま……待て…っ……」 「だいじょうぶ」 小さく囁いて耳にキスする。 「……ッ……」 「怖くないよ」 宥めるように三上の震える背中を抱いて、藤代は指の数を増やした。 「ッ……」 息を殺して三上が耐える。その様は痛々しいほどだった。 ――そりゃそうだよな。 いくら事前に知識を蓄えてきたといっても藤代は玄人ではないし、本来そういうことをする器官でないのは百も承知だ。なんたって藤代にも三上にも経験がない。 頼りになるのは唯一、互いの気持ちだけだ。 苦痛を与えたいわけでは決してない。 藤代は時間をかけて、三上の裡をゆっくりと探る。 「……ア…ッ」 思わずといった風情で上がった声にほんの少し甘さが含まれていたのを注意深く聞き取って、藤代はもう一度同じ場所に触れた。 「何? ココが感じるの?」 「……ッ……!」 だが、体験したことのない感覚への戸惑いか、逆に三上の身体は強張ってしまう。 やはり唾液で濡らした指先だけで馴らすのはムリかと藤代は思い、しばしの逡巡の後、心を決めた。 「ごめんね先輩。ちょっと恥ずかしいかもしれないけど……」 言いながら、藤代は三上の身体を俯せになるよう、ひっくり返す。 「え……」 不意を突かれてうろたえる三上の声を耳に、藤代は手早く三上の腰を抱え上げ膝をつかせた。 「な……ッ」 あらぬところが完全に藤代の目の前に晒される格好になって、さすがに三上もそれには抗った。 「やめ、ろ……藤代……ッ」 しかし、いかんせん身動きのできない体勢なため、三上の身体を抑えこむのは藤代にとって造作もないことだ。 「ホントは専用のローションか何かあればよかったんですケド」 言いながら、それまで指で馴らそうとしていた箇所に舌を這わせる。 途端、ビクリと三上の身体が大きく震えた。 「や…め…ろって……」 消え入るような震えた声がして、さすがに藤代も三上の心中を思い、困った笑みを浮かべた。 行為に慣れていない三上に、今しているこれは精神的負担が大きいのはわかっているのだが。 「もうちょっと我慢して、先輩。ちゃんと馴らしておかないと、あとがツライから。ね?」 宥めるように優しく言って聞かせる。 「………ッ」 三上の掌がぎゅとシーツを握りしめているのが目に入った。 藤代の言葉を完全に受け入れたわけではないだろうが、それでも抵抗のやんだ三上の背に藤代はそっと口づけて、そのまま辿るように三上の奥へと舌を伸ばした。 唾液を流し込むように舌を這わせ、丹念に辿っては解してゆく。 濡れた卑猥な音だけが響いていた。 両膝をつかされている三上の脚がガクガクと震え出し、その腰も藤代が押さえていなければ沈みそうに揺れ始める。 ちゃんと前も反応しているのに、藤代は小さな笑みを浮かべて、そっとそちらにも指を這わせた。 「アッ……!」 短い悲鳴とともに三上の背がしなる。 「いいよ。もう一回、イッて?」 三上は懸命に堪えようとしていたようだが、藤代が緩く上下に擦ってやると、その刺激だけであっさり達した。 本当に慣れてないんだな、と藤代は思いながら、羞恥に赤く染まった三上の耳を後ろから淡く食む。 「気持ちヨカッタ?」 「な…ん……で、俺…ばっかり……」 半ば涙声になりながら、三上が悔しげに呟く。 「オレだって、もう限界近いですよ?」 藤代は苦笑し――ゆっくり三上の身体をまた元のように仰向けに返すと、三上が自分の晒した痴態を恥じるよう腕で顔を覆い隠す。 「三上先輩……」 藤代は小さく笑って、三上の腕をそっと顔の上からのかせた。 「そんな恥ずかしがらないでよ。オレすごく嬉しいのに。先輩がオレだけにそういう顔、見せてくれること……」 「……俺はもう死にたい」 目を伏せたまま、ぐったりと呟く三上の目許は涙で濡れて赤く染まっている。 「お前、信じられない。なんであんなことできるんだ……」 「なんでって……そりゃ好きだから……。しかもまだ終わってませんよ先輩」 「………」 「ここに」 時間をかけて慣らしたそこは先程よりは簡単に藤代の指先を受け入れた。 「オレのを入れるんですよ?」 掠れた声で少しだけ意地悪く囁いてみせる。 「言ったでしょ? オレだって限界近いって」 藤代が指先を動かすと、三上が息を詰める。その羞恥を耐える表情に、またも藤代は煽られた。 指先を引き抜くと息をつく間も与えずに、三上の両足首を掴み、やや乱暴な動作で左右へ開かせる。 暴く感覚。 それに連動するよう突き上がる衝動。 性急に自身を三上の奥へ押しつけて、そこで藤代ははっと我に返った。三上の抵抗がない。強引に身体を開かされようとしているのに、三上の抵抗はまったくなかった。ただ少し、掴んだ脚先が震えているだけで―― ――だめだ、オレ。 藤代はぎゅっと目を瞑った。 ――自分を見失うな。 力任せに掴んだ指先から力を抜く。 ――衝動に任せちゃだめだ。 一呼吸置いて、藤代は三上に問いかけた。 「本当にいい?」 「……何、いまさら……」 「だよね」 藤代が苦笑した気配を読み取ったのか、三上が薄く笑んだ。 「…………いいぜ、来いよ」 「初めてのくせして大胆だね、先輩」 「うるせーよ」 何度もキスを交わして互いの緊張を解く。 「先輩、力抜いててね」 「わかって、る………」 怯えを必死で押し隠し、自分を受け入れようとしている三上が愛しかった。 押し入ってもすぐには動かずに、三上の呼吸が整うのを待つ。 転がる涙を親指の腹で拭って、そっと口づけた。 「三上先輩……」 「………」 名前を呼ぶと、それに応えて涙に濡れた瞳がゆっくりと開かれる。 「苦しい?」 「アツ…イ………」 体内に抱えきれないほどの質量を埋め込まれて、しかし抗えず藤代のなすがままに身体を開いた三上は息も絶え絶えに呟いた。 「オレもだよ。三上先輩の中、すごく熱い」 「……よく、ない、か……?」 藤代を思わず目を見開いた。 「……俺は、どう、……すれば、いい……?」 初めてで、こんな切羽詰まった状況なのに。 「お前が、よくないなら、俺は……」 三上の震える声に、藤代こそが泣きそうになった。 「よくないわけないでしょ。三上先輩の中にいるんですよ?」 愛しさでどうにかなりそうだ。 「少し動きますね」 「ん……」 掠れた声で三上が応じる。そんな了承の返事にすら刺激される。 「三上先輩、声抑えないで」 「……ッ……」 「声、ちゃんと出した方がつらくないから……ね?」 「ふ…じ…しろ……ッ」 藤代の名を呼ぶ、その語尾にほんの僅か甘さが滲む。 それに切なく胸を衝かれるような心地がして、思わず藤代は三上の奥へとさらに深く自身を埋め込んだ。 「アアッ……!」 そこから堰を切ったように三上の口から苦鳴に似た嬌声が漏れ出す。 「ヤ、ああッ……」 藤代が身体を揺らすたび、押し殺せなかったらしい声が上がった。と、同時に三上の表情に苦痛によるものではない片鱗をようやく見つけて、藤代は安堵にふと笑みを漏らした。 「な、に、……これ……」 戸惑う三上に笑いかける。 「少しは、感じる?」 「わかんな……アッ……」 強く揺さ振りながら、限界に近づいていた三上のものに触れた。 「そのうち、もっと、慣れるよ、きっと」 互いの荒い息遣いを耳に聞いていた。 三上は涙に濡れた目許もそのままで、藤代の腕にぐったりと弛緩した身体を預けている。 「――も、サイコー」 そんな三上の背を抱き、藤代は呟く。 「ごめんね」 「な、にが……」 「あんなこと言ってたくせして」 思わず漏れた苦笑を誤魔化すようにして、三上の眦へ口づける。 ――オレのほうが飛んでっちゃいそうだったよ、三上先輩。 ――6へ続く。 |
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